2013年 02月 15日
インフルエンザと新型インフルエンザ |
毎年、1~2月中旬にかけて流行するインフルエンザ。予防や重症化を防ぐためにはマスクや手洗い、人ごみを避ける、ワクチンを接種するなど、もうご存知とは思いますが復習してみましょう。後半には新型インフルエンザについても触れています。
症状は、突然38~40℃の高熱が出て、呼吸器症状に加え、頭痛や倦怠感、筋肉痛、関節痛など全身症状が起こります。消化器症状が出ることもあります。
Q1 なぜ毎年でもかかる可能性があるのですか?
毎年少しずつ抗原が変異するためです
私たちの体は免疫の働きにより、体内にウイルス(抗原)が侵入すると抗体がつくられ、再び同じウイルスには感染しません。この生体防御システムを「抗原抗体反応」といいます。インフルエンザが毎年、世界中で流行しながら、過去にかかっても感染を繰り返すのは、ウイルスが毎年わずかに変異することが原因です。
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型があります。C型はかぜと区別できないため、一般的に流行するインフルエンザといえば、A型とB型を指します。
ウイルスの大きさは1ミリの1万分の1くらいですが、表面にはスパイクという糖タンパクの突起物があります。スパイクにはHA、NAの2種類あり、それぞれ感染・増殖にかかわる働きをします。これらは1つの型だけではなく、HAは16種類、NAは9種類あり、この組み合わせによって、同じA型でも様々なタイプが存在することになります。現在、人の間で流行しているA型のウイルスは、「A/ソ連型」「A/香港型」というタイプです。
しかし、スパイクは同じタイプでも毎年、変異を起こして少しずつ形を変えていきます。そのため、以前にインフルエンザウイルスに感染して抗体がある人でも、抗体とウイルスのスパイクの形が合わず、感染を防ぐことができないのです。A型のウイルスは小さな変異を繰り返しながら小流行を続けますが、過去には3度、全く違う新型インフルエンザが出現し、世界的大流行を起こしました。
Q2 合併症を起こすリスクの高い人は?
乳幼児や高齢者は注意が必要です
近年、ワクチン接種や抗ウイルス薬の開発により、肺炎などの合併症を起こして重症になる患者数は減少しています。合併症を起こしやすいのは抵抗力が弱い乳幼児や高齢者、呼吸器や循環器などに持病のある人など。これらの人はワクチン接種や早期の受診をおすすめします。特に高齢者は高熱などの症状が出にくく、治療が送れて重症化することがありますので、流行時には周囲の人が注意を払って下さい。乳幼児の場合、毎年、数百人がかかるインフルエンザ脳症に気をつけましょう。
《乳幼児に多いインフルエンザ脳症》
インフルエンザ脳症とは、おもに乳幼児がかかるインフルエンザウイルス感染による脳症です(発症率は10万人当たり2.5人)。インフルエンザの発熱から数時間~1日と短時間で発症。脳が腫れた状態(脳浮腫)になるために脳全体の機能が低下し、意識障害や手足が動かないなどの麻痺、けいれん、嘔吐、異常行動などが起こります。インフルエンザ脳症による死亡率は30%、後遺症も25%に見られます。
Q3 予防するにはどうしたらいいのでしょう?
流行前にワクチンの接種をしましょう
日本では、シーズンによって流行の規模は異なりますが、インフルエンザにかかる人の割合は毎年5~10パーセントの範囲で推移しています。インフルエンザは感染力が非常に強く、予防のためには、流行時に人ごみを避けたり、十分な栄養や休養など、日常生活の工夫も大切ですが、最も効果的なのがワクチンの接種です。接種の際の注意点は次の通り。
●時期・・・摂取後、抗体ができるまでに約2週間かかるため、インフルエンザが流行し始める前、10~12月中旬までに受ける。ワクチンの有効期間は約5ヶ月。
●回数・・・成人は1回。基礎免疫が弱い子供(6ヶ月~13歳未満)は2~4週間空けて2回接種。
●副作用・・・接種した場所に赤みや腫れや痛みを起こす程度で自然に治るケースがほとんど。
●接種できない人・・・6ヶ月未満の乳児、37.5度以上の熱があるとき、予防接種でアレルギー症状を起こした経験のある人、強い卵アレルギーがある人など。
ワクチンを接種したにもかかわらす、インフルエンザに感染するケースもあります。原因としては、体内で抗体が作られなかったり、抗体はできてもかかったウイルスとワクチンの抗原性が違っていたというケースが考えられます。しかし、この場合でも合併症などの重症化を防ぐ事もあります。とくにワクチン接種がすすめられる人は次の通りです。
●65歳以上の高齢者。
●6ヶ月~13歳未満の子供。
●肺や心臓に病気のある人。
●糖尿病や腎臓病の人。
●気管支ぜんそくなど呼吸器疾患のある人。
●抗がん剤や免疫抑制薬を使っている人。
●乳幼児や高齢者、病気の人と同居している家族。
●妊娠、授乳中の女性
《妊娠中、ワクチン接種をしても大丈夫?》
現在のところ、妊娠中にワクチンを接種した場合の副反応や胎児への悪影響は報告されていません。妊娠中にインフルエンザにかかった場合、妊婦は重症化するリスクが高く、抗ウイルス薬は重症化するリスクが高く、抗ウイルス薬は胎児への安全性が確認されていないため投与できません。また、授乳中のお母さんがインフルエンザにかかると、乳児に感染してインフルエンザ脳症などを起こす確立が高まります。そのため、妊娠中・授乳中ともにワクチンの接種をおすすめします。
Q4 ワクチンはどのように作られているのでしょう?
ウイルス内の必要な成分のみを精製します
日本では毎年、シーズンの終わりごろ、WHOが推奨する次シーズンのウイルスの流行株情報や国内の流行情報などに基づき、翌シーズンのワクチン製造株を選定します。現在は世界中で流行しているA型2種類とB型1種類の3種類混合ワクチンとなっています。
ワクチンはまず、インフルエンザウイルスを発育鶏卵の中で増殖させます。さらに特殊な加工によってウイルス表面のスパイクの一つ、HAだけを取り出して精製します。抗体を獲得するために必要な成分のみを取り出した不活化ワクチンですから、接種によってインフルエンザが発症する心配はありません。
Q5 インフルエンザの薬はタミフルしかないの?
現在は2種類の抗ウイルス薬が主流です
現在使われている抗ウイルス薬は「ノイラミニダーゼ阻害薬」といって、感染後に増殖したウイルスを放出するNAの働きをブロックしてウイルスの増殖を抑えることができ、A型、B型どちらのウイルスにも有効です。薬の種類は次の2つです。
●リン酸オセルタミビル(タミフル)・・・カプセルとドライシロップ(粉末)があり、どちらかを5日間服用。ドライシロップはカプセルを飲み込むことが困難な乳幼児や高齢者向き。
●ザナミビル(リレンザ)・・・粉末の吸入薬を専用の吸入器で5日間吸入する。
ノイラミニダーゼ阻害薬は発症後48時間以内に服用することによって高熱を下げ、全身症状の回復を早めるとともに、合併症を予防する効果もあります。
2006年冬、タミフル服用後の異常行動のニュースが連日報道され、大きな社会不安を巻き起こしましだ。しかし、異常行動はタミフルによるものではなく、インフルエンザそのものに関係していることが分かっています。タミフルを使ったかどうかにかかわらず、未成年者がインフルエンザにかかった時は周囲の人が注意深く観察し、できるだけ目を離さないようにして下さい。
病院では症状にあわせて鎮咳薬や去痰薬、解熱鎮痛剤のほか、二次感染予防のために抗生物質などを処方することもあります。
Q6 鳥インフルエンザはどこからやってくるの?
渡り鳥が運び、水鳥、ニワトリへと感染
A型インフルエンザウイルスは、人だけでなく、鳥や豚などの動物にも感染します。しかし通常はトリ型のウイルスは鳥の間で、ヒト型のウイルスは人の間でのみ感染し、動物の種の壁を超えることはありません。
鳥インフルエンザウイルスはもともと渡り鳥のカモの腸に寄生していますが、カモにはインフルエンザは発症しません。しかし、ウイルスを含んだ糞便に汚染された水を飲んだ水鳥には、インフルエンザが感染します。さらに、水鳥からニワトリに広がり、そのニワトリの集団の中で感染が繰り返されているうちにウイルスが高い病原性を持つウイルスに変異します。その高病原性鳥インフルエンザウイルスが水鳥や渡り鳥のカモに再び感染し世界に広がって行きます。さらにニワトリへの接触頻度の高い飼育者に感染したと考えられます。
Q7 新型インフルエンザの正体は?
人と人の間で感染する鳥インフルエンザです
厚生労働省では新型インフルエンザについて「過去数十年の間に人に感染したことの無いタイプのウイルスが人の間で感染し、インフルエンザの流行を起こした時に、この原因となるインフルエンザウイルスが新型インフルエンザウイルスである」と定義しています。Q1で述べたように、全く違うインフルエンザウイルスが現れて大流行するのが新型インフルエンザなのです。
過去100年間に新型インフルエンザは1918年のスペインかぜ(H1N1)、1957年のアジアかぜ(H2N2)、1968年の香港かぜ(H3N2)の3回発生。いずれも世界的大流行(パンデミック)を起こして多くの死者を出しました。特にスペインかぜは世界の人口の約30パーセントが感染し、4000万人が死亡、日本でも約39万人が死亡したと推測されています。過去3回の新型インフルエンザはどれも鳥インフルエンザウイルスが原因と考えられています。
香港かぜ以来40年間、新型インフルエンザが出現していない中、世界中で発生している「高病原性鳥インフルエンザ」のウイルス(H5N1)が新型インフルエンザウイルスに変異することが懸念されています。
高病原性鳥インフルエンザの人への感染が初めて確認されたのが1997年の香港で、18名の感染者のうち6名の死者を出しました。その後も鳥の間での鳥インフルエンザの流行はアジアからヨーロッパなどに広がり、人への感染も報告されています。ただし、人への感染は鳥インフルエンザにかかったニワトリなどと接触して、羽や糞の粉末を吸い込んだり、糞や内臓に触れた手を介して鼻からウイルスが入るなど、人体内に大量のウイルスが入ってしまった場合に限られています。また、人から人へ感染した例(兄弟や母子間における家族内感染)も報告されています。
人から人へ感染する新型インフルエンザウイルスがいつ出現し、どのくらい強い感染力を持っているかを予測する事はできません。しかし、発生したらほとんどの人は免疫を持っていないため、急速に世界的に大流行する危険性があります。WHOでは新型インフルエンザが流行した場合、最悪で人口の25パーセントが感染し、約64万人が死亡すると予測しています。このような事態を避けるため、世界中で努力が続けられています。
SARSは新型インフルエンザとは全く違うものですか?
2003年に世界的流行を起こしたSARSは高熱や頭痛、咳などの症状や感染力の強さから新型インフルエンザと混同されがちですが、インフルエンザウイルスではなく、新型コロナウイルスによって起こる「重症急性呼吸器症候群」という病気です。前回の流行時でSARSにかかった人のうち、80~90%が発症後約1週間で症状が改善し回復しましたが、10~20%が呼吸不全など重症化しました。前回以来、再流行していませんが、予防にはインフルエンザ同様、手洗いやうがい、抵抗力をつけるために十分な栄養をとること。また、咳などの症状が出た人はマスクを使用することも重要です。
Q8 新型インフルエンザに対する国や自治体の準備は?
抗ウイルス薬の開発、ワクチンの開発など
厚生労働省は2005年、「新型インフルエンザ対策推進本部」を設置。「新型インフルエンザ対策行動計画」を策定し、発生状況に備えた具体的な対策を講じています。この計画では平時から大流行まで6段階に分けて状況に応じた対策を具体化。現在は「高病原性鳥インフルエンザがニワトリから人への感染が見られる」という3段階目(フェーズ3)にあたり、抗インフルエンザウイルス薬の備蓄や鳥インフルエンザに対するワクチンの開発などを進めています。生活上の注意点としては、鳥インフルエンザの感染者が多い地域などに渡航した場合、鳥との接触を避けることが挙げられています。
地方自治体でもこの行動計画に沿った形、もしくは独自の新型インフルエンザ対策の行動計画やマニュアルを策定しています。
新型インフルエンザの最新情報は厚生労働省や国立感染症研究所、同研究所の感染症情報センター、各自治体の衛生部局や保健所などのホームページで確認できます。また、厚生労働省や各自治体では相談窓口も設けていますから、不明点は電話で問い合わせて下さい。
フェーズ1・・人に感染する可能性を持つウイルスが動物から検出されるが、人への感染リスクは低い。
フェーズ2・・動物から人に感染のリスクの高いウイルスが検出される。
フェーズ3・・動物から人へのウイルスの感染は見られるが、人から人への感染はないか、ごく限定的。
フェーズ4・・新型ウイルスが人から人へ感染。ただし特定地域内で小さな集団感染のみ。
フェーズ5・・新型ウイルスでより大きな集団感染が発生するが、発生は地域内に限られる。
フェーズ6・・新型ウイルスの人から人への感染が増加・継続し、世界的に大流行する。
Q9 個人としてできる準備は?
手洗いなどの習慣や食料品の確保を
新型インフルエンザの流行をむやみに恐れるのではなく、正しい知識を持ち、冷静に準備することが大切。対処法は一般的なインフルエンザの予防の延長上にあるととらえ、毎日の生活で次のことを心がけましょう。
●外出後など、こまめな手洗い、うがいを習慣にする。
●咳やくしゃみなどの症状のある人は必ずマスクをつける。
●咳やくしゃみの際はティッシュなどで口と鼻を押さえ、周囲の人から顔をそむける。鼻をかんだ手は直ちに洗う。
●十分な栄養と休養をとり、体力や抵抗力を高める。
●室内を適度な温度・湿度に。
●流行地への渡航や人込みへの外出を控える。
新型インフルエンザが発生すると、交通や通信、電気、ガス、水道などのライフラインに影響が及ぶかもしれません。感染予防のために外出を控える必要も出てきますから、最低2週間分の食料や飲料水、日用品などを準備しておきましょう。
また、発生時の対応を家族で話し合っておくことも大切です。
おもな内容は次の通りです。
●学校や会社が休みになり、自宅待機になったときの家族の役割分担。
●家族が病気になった場合、誰が看護するかなどの療養方法。
●食糧の保管場所や備蓄状況などの情報の共有。
とくに子供に対して、しっかり理解させることが大切です。
<2週間程度生活ができる準備>
食料(長期保存が可能なもの)
米 乾麺類(そば、そうめん、うどんなど) 切り餅 コーンフレーク・シリアル類 乾パン 各種調味料 レトルト・フリーズドライ食品 冷凍食品(停電に注意) インスタントラーメン 缶詰 菓子類 ミネラルウォーター ペットボトルや缶入りの飲料
日用品・医療品
*常備品*
常備薬(胃腸薬、痛み止め、その他持病の処方薬) ばんそうこう(大・小) ガーゼ・コットン(滅菌のものとそうでないもの) 注:解熱鎮痛剤は成分によっては、インフルエンザ脳症を助長する可能性があります。購入時に医師・薬剤師に確認して下さい。
*インフルエンザウイルスに対抗する物品*
マスク ゴム手袋(破れにくいもの) 水枕・氷枕(頭や腋下の冷却用) 塩素系漂白剤(消毒効果がある) 消毒用アルコール
通常の災害時にもあると便利なもの懐中電灯 乾電池 携帯電話充電キット ラジオ・携帯テレビ カセットコンロ・ガスボンベ キッチン用ラップ アルミホイル 洗剤(衣類・食器など)・石鹸 シャンプー・リンス 保湿ティッシュ 生理用品 ビニール袋
**万が一、新型インフルエンザが発生したら**
1.まず、情報収集を
新型インフルエンザが発生した場合、日本では厚生労働大臣が「非常事態宣言」を出します。ここでパニックを起こさないよう、最も信頼できる国や地方自治体などが提供する情報を集めて下さい。情報源としてはテレビやインターネット、広報、新聞、雑誌など様々な媒体があり、中には根拠のない噂や信憑性に問題のある情報が流れることも予測されます。これらの情報をうのみにせず、冷静に対応することが重要です。
2.感染者が出た場合
新型インフルエンザと思われる症状がある場合、本人もしくは家族が一刻も早く地域の保健所に電話して状況の説明をして下さい。そして指定された医療機関で診断を受けるか、保健所職員の訪問を受けるなどの指示に従って下さい。新型インフルエンザであれば感染者指定医療機関などに入院措置などがとられます。事前連絡なく近くの病院を受診すると、万が一、新型インフルエンザであった場合、待合室などで他の人に感染する恐れがあります。あらかじめ、自分の地域の保健所や行政機関の電話番号を確認しておくと良いでしょう。
3.医療体制が崩壊しないために
新型インフルエンザが大流行した場合、膨大な数の人が医療機関に押し寄せ、受け入れ態勢が不十分になる事が予測されます。感染者だけでなく、交通事故などで救急を要する人や生命に関わる病気を患っている人、人工透析などの継続的な治療が必要な人もいます。そのため、緊急を要さない場合の受診や軽症で救急車を要請することは避けて下さい。
4.不要不急の外出を控える
感染の拡大を最低限に抑えるために、食料などの生活必需品の買い出しなど、やむをえない場合を除いて、外出や集会は極力控えます。また、外出しなくてもいいよう、2週間程度生活することのできる食料や飲料水を備蓄しておくことも重要です。体温計や解熱鎮痛剤、下痢止め、消毒薬なども準備しておいて下さい。
どうしても外出しなければならない場合には抗ウイルス用マスクや密閉式のゴーグル、手袋などを着用し、できるだけ人込みを避けて行動しましょう。
新型インフルエンザの症状
《肺炎から多臓器不全に陥るケースも》
新型インフルエンザウイルスが発生した場合、その症状の程度は現在のところ予測困難です。ただし、これまで東南アジアなどで発生した高病原性鳥インフルエンザの症状としては、平均3日間の潜伏期の後に38度以上の高熱が出ます。通常のインフルエンザと同様に、強い倦怠感や筋肉痛、関節痛を伴い、腹痛や下痢が起こることもあります。さらに数日以内に急激に悪化し、息苦しさや激しい咳、呼吸困難などの肺炎症状が起こります。
さらにインフルエンザウイルスが血液によって、様々な臓器に感染すると、短時間に多臓器不全を起こし、重症化します。多臓器不全によって起こるおもな症状は次の通りです。
●神経症状・・・頭痛、けいれん、意識障害、麻痺など。
●心不全・・・不整脈、呼吸困難、むくみなど。
●肝障害・・・食欲低下、吐き気、倦怠感など。
●急性腎不全・・・むくみ、血尿、全身疲労、全身のかゆみなど。
症状は、突然38~40℃の高熱が出て、呼吸器症状に加え、頭痛や倦怠感、筋肉痛、関節痛など全身症状が起こります。消化器症状が出ることもあります。
Q1 なぜ毎年でもかかる可能性があるのですか?
毎年少しずつ抗原が変異するためです
私たちの体は免疫の働きにより、体内にウイルス(抗原)が侵入すると抗体がつくられ、再び同じウイルスには感染しません。この生体防御システムを「抗原抗体反応」といいます。インフルエンザが毎年、世界中で流行しながら、過去にかかっても感染を繰り返すのは、ウイルスが毎年わずかに変異することが原因です。
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型があります。C型はかぜと区別できないため、一般的に流行するインフルエンザといえば、A型とB型を指します。
ウイルスの大きさは1ミリの1万分の1くらいですが、表面にはスパイクという糖タンパクの突起物があります。スパイクにはHA、NAの2種類あり、それぞれ感染・増殖にかかわる働きをします。これらは1つの型だけではなく、HAは16種類、NAは9種類あり、この組み合わせによって、同じA型でも様々なタイプが存在することになります。現在、人の間で流行しているA型のウイルスは、「A/ソ連型」「A/香港型」というタイプです。
しかし、スパイクは同じタイプでも毎年、変異を起こして少しずつ形を変えていきます。そのため、以前にインフルエンザウイルスに感染して抗体がある人でも、抗体とウイルスのスパイクの形が合わず、感染を防ぐことができないのです。A型のウイルスは小さな変異を繰り返しながら小流行を続けますが、過去には3度、全く違う新型インフルエンザが出現し、世界的大流行を起こしました。
Q2 合併症を起こすリスクの高い人は?
乳幼児や高齢者は注意が必要です
近年、ワクチン接種や抗ウイルス薬の開発により、肺炎などの合併症を起こして重症になる患者数は減少しています。合併症を起こしやすいのは抵抗力が弱い乳幼児や高齢者、呼吸器や循環器などに持病のある人など。これらの人はワクチン接種や早期の受診をおすすめします。特に高齢者は高熱などの症状が出にくく、治療が送れて重症化することがありますので、流行時には周囲の人が注意を払って下さい。乳幼児の場合、毎年、数百人がかかるインフルエンザ脳症に気をつけましょう。
《乳幼児に多いインフルエンザ脳症》
インフルエンザ脳症とは、おもに乳幼児がかかるインフルエンザウイルス感染による脳症です(発症率は10万人当たり2.5人)。インフルエンザの発熱から数時間~1日と短時間で発症。脳が腫れた状態(脳浮腫)になるために脳全体の機能が低下し、意識障害や手足が動かないなどの麻痺、けいれん、嘔吐、異常行動などが起こります。インフルエンザ脳症による死亡率は30%、後遺症も25%に見られます。
Q3 予防するにはどうしたらいいのでしょう?
流行前にワクチンの接種をしましょう
日本では、シーズンによって流行の規模は異なりますが、インフルエンザにかかる人の割合は毎年5~10パーセントの範囲で推移しています。インフルエンザは感染力が非常に強く、予防のためには、流行時に人ごみを避けたり、十分な栄養や休養など、日常生活の工夫も大切ですが、最も効果的なのがワクチンの接種です。接種の際の注意点は次の通り。
●時期・・・摂取後、抗体ができるまでに約2週間かかるため、インフルエンザが流行し始める前、10~12月中旬までに受ける。ワクチンの有効期間は約5ヶ月。
●回数・・・成人は1回。基礎免疫が弱い子供(6ヶ月~13歳未満)は2~4週間空けて2回接種。
●副作用・・・接種した場所に赤みや腫れや痛みを起こす程度で自然に治るケースがほとんど。
●接種できない人・・・6ヶ月未満の乳児、37.5度以上の熱があるとき、予防接種でアレルギー症状を起こした経験のある人、強い卵アレルギーがある人など。
ワクチンを接種したにもかかわらす、インフルエンザに感染するケースもあります。原因としては、体内で抗体が作られなかったり、抗体はできてもかかったウイルスとワクチンの抗原性が違っていたというケースが考えられます。しかし、この場合でも合併症などの重症化を防ぐ事もあります。とくにワクチン接種がすすめられる人は次の通りです。
●65歳以上の高齢者。
●6ヶ月~13歳未満の子供。
●肺や心臓に病気のある人。
●糖尿病や腎臓病の人。
●気管支ぜんそくなど呼吸器疾患のある人。
●抗がん剤や免疫抑制薬を使っている人。
●乳幼児や高齢者、病気の人と同居している家族。
●妊娠、授乳中の女性
《妊娠中、ワクチン接種をしても大丈夫?》
現在のところ、妊娠中にワクチンを接種した場合の副反応や胎児への悪影響は報告されていません。妊娠中にインフルエンザにかかった場合、妊婦は重症化するリスクが高く、抗ウイルス薬は重症化するリスクが高く、抗ウイルス薬は胎児への安全性が確認されていないため投与できません。また、授乳中のお母さんがインフルエンザにかかると、乳児に感染してインフルエンザ脳症などを起こす確立が高まります。そのため、妊娠中・授乳中ともにワクチンの接種をおすすめします。
Q4 ワクチンはどのように作られているのでしょう?
ウイルス内の必要な成分のみを精製します
日本では毎年、シーズンの終わりごろ、WHOが推奨する次シーズンのウイルスの流行株情報や国内の流行情報などに基づき、翌シーズンのワクチン製造株を選定します。現在は世界中で流行しているA型2種類とB型1種類の3種類混合ワクチンとなっています。
ワクチンはまず、インフルエンザウイルスを発育鶏卵の中で増殖させます。さらに特殊な加工によってウイルス表面のスパイクの一つ、HAだけを取り出して精製します。抗体を獲得するために必要な成分のみを取り出した不活化ワクチンですから、接種によってインフルエンザが発症する心配はありません。
Q5 インフルエンザの薬はタミフルしかないの?
現在は2種類の抗ウイルス薬が主流です
現在使われている抗ウイルス薬は「ノイラミニダーゼ阻害薬」といって、感染後に増殖したウイルスを放出するNAの働きをブロックしてウイルスの増殖を抑えることができ、A型、B型どちらのウイルスにも有効です。薬の種類は次の2つです。
●リン酸オセルタミビル(タミフル)・・・カプセルとドライシロップ(粉末)があり、どちらかを5日間服用。ドライシロップはカプセルを飲み込むことが困難な乳幼児や高齢者向き。
●ザナミビル(リレンザ)・・・粉末の吸入薬を専用の吸入器で5日間吸入する。
ノイラミニダーゼ阻害薬は発症後48時間以内に服用することによって高熱を下げ、全身症状の回復を早めるとともに、合併症を予防する効果もあります。
2006年冬、タミフル服用後の異常行動のニュースが連日報道され、大きな社会不安を巻き起こしましだ。しかし、異常行動はタミフルによるものではなく、インフルエンザそのものに関係していることが分かっています。タミフルを使ったかどうかにかかわらず、未成年者がインフルエンザにかかった時は周囲の人が注意深く観察し、できるだけ目を離さないようにして下さい。
病院では症状にあわせて鎮咳薬や去痰薬、解熱鎮痛剤のほか、二次感染予防のために抗生物質などを処方することもあります。
Q6 鳥インフルエンザはどこからやってくるの?
渡り鳥が運び、水鳥、ニワトリへと感染
A型インフルエンザウイルスは、人だけでなく、鳥や豚などの動物にも感染します。しかし通常はトリ型のウイルスは鳥の間で、ヒト型のウイルスは人の間でのみ感染し、動物の種の壁を超えることはありません。
鳥インフルエンザウイルスはもともと渡り鳥のカモの腸に寄生していますが、カモにはインフルエンザは発症しません。しかし、ウイルスを含んだ糞便に汚染された水を飲んだ水鳥には、インフルエンザが感染します。さらに、水鳥からニワトリに広がり、そのニワトリの集団の中で感染が繰り返されているうちにウイルスが高い病原性を持つウイルスに変異します。その高病原性鳥インフルエンザウイルスが水鳥や渡り鳥のカモに再び感染し世界に広がって行きます。さらにニワトリへの接触頻度の高い飼育者に感染したと考えられます。
Q7 新型インフルエンザの正体は?
人と人の間で感染する鳥インフルエンザです
厚生労働省では新型インフルエンザについて「過去数十年の間に人に感染したことの無いタイプのウイルスが人の間で感染し、インフルエンザの流行を起こした時に、この原因となるインフルエンザウイルスが新型インフルエンザウイルスである」と定義しています。Q1で述べたように、全く違うインフルエンザウイルスが現れて大流行するのが新型インフルエンザなのです。
過去100年間に新型インフルエンザは1918年のスペインかぜ(H1N1)、1957年のアジアかぜ(H2N2)、1968年の香港かぜ(H3N2)の3回発生。いずれも世界的大流行(パンデミック)を起こして多くの死者を出しました。特にスペインかぜは世界の人口の約30パーセントが感染し、4000万人が死亡、日本でも約39万人が死亡したと推測されています。過去3回の新型インフルエンザはどれも鳥インフルエンザウイルスが原因と考えられています。
香港かぜ以来40年間、新型インフルエンザが出現していない中、世界中で発生している「高病原性鳥インフルエンザ」のウイルス(H5N1)が新型インフルエンザウイルスに変異することが懸念されています。
高病原性鳥インフルエンザの人への感染が初めて確認されたのが1997年の香港で、18名の感染者のうち6名の死者を出しました。その後も鳥の間での鳥インフルエンザの流行はアジアからヨーロッパなどに広がり、人への感染も報告されています。ただし、人への感染は鳥インフルエンザにかかったニワトリなどと接触して、羽や糞の粉末を吸い込んだり、糞や内臓に触れた手を介して鼻からウイルスが入るなど、人体内に大量のウイルスが入ってしまった場合に限られています。また、人から人へ感染した例(兄弟や母子間における家族内感染)も報告されています。
人から人へ感染する新型インフルエンザウイルスがいつ出現し、どのくらい強い感染力を持っているかを予測する事はできません。しかし、発生したらほとんどの人は免疫を持っていないため、急速に世界的に大流行する危険性があります。WHOでは新型インフルエンザが流行した場合、最悪で人口の25パーセントが感染し、約64万人が死亡すると予測しています。このような事態を避けるため、世界中で努力が続けられています。
SARSは新型インフルエンザとは全く違うものですか?
2003年に世界的流行を起こしたSARSは高熱や頭痛、咳などの症状や感染力の強さから新型インフルエンザと混同されがちですが、インフルエンザウイルスではなく、新型コロナウイルスによって起こる「重症急性呼吸器症候群」という病気です。前回の流行時でSARSにかかった人のうち、80~90%が発症後約1週間で症状が改善し回復しましたが、10~20%が呼吸不全など重症化しました。前回以来、再流行していませんが、予防にはインフルエンザ同様、手洗いやうがい、抵抗力をつけるために十分な栄養をとること。また、咳などの症状が出た人はマスクを使用することも重要です。
Q8 新型インフルエンザに対する国や自治体の準備は?
抗ウイルス薬の開発、ワクチンの開発など
厚生労働省は2005年、「新型インフルエンザ対策推進本部」を設置。「新型インフルエンザ対策行動計画」を策定し、発生状況に備えた具体的な対策を講じています。この計画では平時から大流行まで6段階に分けて状況に応じた対策を具体化。現在は「高病原性鳥インフルエンザがニワトリから人への感染が見られる」という3段階目(フェーズ3)にあたり、抗インフルエンザウイルス薬の備蓄や鳥インフルエンザに対するワクチンの開発などを進めています。生活上の注意点としては、鳥インフルエンザの感染者が多い地域などに渡航した場合、鳥との接触を避けることが挙げられています。
地方自治体でもこの行動計画に沿った形、もしくは独自の新型インフルエンザ対策の行動計画やマニュアルを策定しています。
新型インフルエンザの最新情報は厚生労働省や国立感染症研究所、同研究所の感染症情報センター、各自治体の衛生部局や保健所などのホームページで確認できます。また、厚生労働省や各自治体では相談窓口も設けていますから、不明点は電話で問い合わせて下さい。
フェーズ1・・人に感染する可能性を持つウイルスが動物から検出されるが、人への感染リスクは低い。
フェーズ2・・動物から人に感染のリスクの高いウイルスが検出される。
フェーズ3・・動物から人へのウイルスの感染は見られるが、人から人への感染はないか、ごく限定的。
フェーズ4・・新型ウイルスが人から人へ感染。ただし特定地域内で小さな集団感染のみ。
フェーズ5・・新型ウイルスでより大きな集団感染が発生するが、発生は地域内に限られる。
フェーズ6・・新型ウイルスの人から人への感染が増加・継続し、世界的に大流行する。
Q9 個人としてできる準備は?
手洗いなどの習慣や食料品の確保を
新型インフルエンザの流行をむやみに恐れるのではなく、正しい知識を持ち、冷静に準備することが大切。対処法は一般的なインフルエンザの予防の延長上にあるととらえ、毎日の生活で次のことを心がけましょう。
●外出後など、こまめな手洗い、うがいを習慣にする。
●咳やくしゃみなどの症状のある人は必ずマスクをつける。
●咳やくしゃみの際はティッシュなどで口と鼻を押さえ、周囲の人から顔をそむける。鼻をかんだ手は直ちに洗う。
●十分な栄養と休養をとり、体力や抵抗力を高める。
●室内を適度な温度・湿度に。
●流行地への渡航や人込みへの外出を控える。
新型インフルエンザが発生すると、交通や通信、電気、ガス、水道などのライフラインに影響が及ぶかもしれません。感染予防のために外出を控える必要も出てきますから、最低2週間分の食料や飲料水、日用品などを準備しておきましょう。
また、発生時の対応を家族で話し合っておくことも大切です。
おもな内容は次の通りです。
●学校や会社が休みになり、自宅待機になったときの家族の役割分担。
●家族が病気になった場合、誰が看護するかなどの療養方法。
●食糧の保管場所や備蓄状況などの情報の共有。
とくに子供に対して、しっかり理解させることが大切です。
<2週間程度生活ができる準備>
食料(長期保存が可能なもの)
米 乾麺類(そば、そうめん、うどんなど) 切り餅 コーンフレーク・シリアル類 乾パン 各種調味料 レトルト・フリーズドライ食品 冷凍食品(停電に注意) インスタントラーメン 缶詰 菓子類 ミネラルウォーター ペットボトルや缶入りの飲料
日用品・医療品
*常備品*
常備薬(胃腸薬、痛み止め、その他持病の処方薬) ばんそうこう(大・小) ガーゼ・コットン(滅菌のものとそうでないもの) 注:解熱鎮痛剤は成分によっては、インフルエンザ脳症を助長する可能性があります。購入時に医師・薬剤師に確認して下さい。
*インフルエンザウイルスに対抗する物品*
マスク ゴム手袋(破れにくいもの) 水枕・氷枕(頭や腋下の冷却用) 塩素系漂白剤(消毒効果がある) 消毒用アルコール
通常の災害時にもあると便利なもの懐中電灯 乾電池 携帯電話充電キット ラジオ・携帯テレビ カセットコンロ・ガスボンベ キッチン用ラップ アルミホイル 洗剤(衣類・食器など)・石鹸 シャンプー・リンス 保湿ティッシュ 生理用品 ビニール袋
**万が一、新型インフルエンザが発生したら**
1.まず、情報収集を
新型インフルエンザが発生した場合、日本では厚生労働大臣が「非常事態宣言」を出します。ここでパニックを起こさないよう、最も信頼できる国や地方自治体などが提供する情報を集めて下さい。情報源としてはテレビやインターネット、広報、新聞、雑誌など様々な媒体があり、中には根拠のない噂や信憑性に問題のある情報が流れることも予測されます。これらの情報をうのみにせず、冷静に対応することが重要です。
2.感染者が出た場合
新型インフルエンザと思われる症状がある場合、本人もしくは家族が一刻も早く地域の保健所に電話して状況の説明をして下さい。そして指定された医療機関で診断を受けるか、保健所職員の訪問を受けるなどの指示に従って下さい。新型インフルエンザであれば感染者指定医療機関などに入院措置などがとられます。事前連絡なく近くの病院を受診すると、万が一、新型インフルエンザであった場合、待合室などで他の人に感染する恐れがあります。あらかじめ、自分の地域の保健所や行政機関の電話番号を確認しておくと良いでしょう。
3.医療体制が崩壊しないために
新型インフルエンザが大流行した場合、膨大な数の人が医療機関に押し寄せ、受け入れ態勢が不十分になる事が予測されます。感染者だけでなく、交通事故などで救急を要する人や生命に関わる病気を患っている人、人工透析などの継続的な治療が必要な人もいます。そのため、緊急を要さない場合の受診や軽症で救急車を要請することは避けて下さい。
4.不要不急の外出を控える
感染の拡大を最低限に抑えるために、食料などの生活必需品の買い出しなど、やむをえない場合を除いて、外出や集会は極力控えます。また、外出しなくてもいいよう、2週間程度生活することのできる食料や飲料水を備蓄しておくことも重要です。体温計や解熱鎮痛剤、下痢止め、消毒薬なども準備しておいて下さい。
どうしても外出しなければならない場合には抗ウイルス用マスクや密閉式のゴーグル、手袋などを着用し、できるだけ人込みを避けて行動しましょう。
新型インフルエンザの症状
《肺炎から多臓器不全に陥るケースも》
新型インフルエンザウイルスが発生した場合、その症状の程度は現在のところ予測困難です。ただし、これまで東南アジアなどで発生した高病原性鳥インフルエンザの症状としては、平均3日間の潜伏期の後に38度以上の高熱が出ます。通常のインフルエンザと同様に、強い倦怠感や筋肉痛、関節痛を伴い、腹痛や下痢が起こることもあります。さらに数日以内に急激に悪化し、息苦しさや激しい咳、呼吸困難などの肺炎症状が起こります。
さらにインフルエンザウイルスが血液によって、様々な臓器に感染すると、短時間に多臓器不全を起こし、重症化します。多臓器不全によって起こるおもな症状は次の通りです。
●神経症状・・・頭痛、けいれん、意識障害、麻痺など。
●心不全・・・不整脈、呼吸困難、むくみなど。
●肝障害・・・食欲低下、吐き気、倦怠感など。
●急性腎不全・・・むくみ、血尿、全身疲労、全身のかゆみなど。
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by wph-sigino
| 2013-02-15 14:19
| インフルエンザ